土壌化学の分析
考古学における「土壌化学(Soil chemistry)」分析は、目に見えない過去の活動を解き明かす作業です。
テオティワカンのような都市遺跡では、目に見える遺物がなくても、土壌に含まれる元素の濃度を調べることで、その場所がかつて市場だったのか、調理場だったのか、あるいは儀式の場だったのかを特定できます。
主な分析対象となる元素とその意味は以下の通りです:
1. リン(P: Phosphorus)
考古学において最も重要な指標の一つです。
- 意味: 人間や動物の排泄物、遺体の分解、食べ残しなどの有機物に由来します。
- 判明すること: 居住区、ゴミ捨て場、または大規模な宴会が行われた場所の特定に役立ちます。
2. 鉄(Fe)とマンガン(Mn)
- 意味: 染料や顔料(赤色のベンガラなど)に含まれます。
- 判明すること: 壁画の制作場所や、工房、儀礼的な彩色の活動があった場所を示唆します。
3. 重金属(亜鉛 Zn、銅 Cu、鉛 Pb)
- 意味: 職人による工芸品の製作過程で排出されます。
- 判明すること: 冶金(金属加工)や特定の工房活動が行われていた範囲を特定できます。
4. 炭酸カルシウム($CaCO_3$)
- 意味: テオティワカンでは、建築資材としての漆喰(スタッコ)や石灰に由来することが多いです。
- 判明すること: 構造物の劣化具合や、清掃活動の頻度(頻繁に掃除されていた場所は化学組成が異なる)を推測する手がかりになります。
分析の手順
- サンプリング: 発掘区画の各層や、広場の表面から規則正しく土を採取します。
- ラボ分析: ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)などの精密機器を用いて、多元素の濃度を測定します。
- マッピング: 得られた数値を地図上にプロットし、濃度が高い「ホットスポット」を可視化します。
この手法を用いることで、例えば「何もないガランとした広場」に見えても、実はそこが「肉を解体する市場」だったといった、当時の生々しい活動の痕跡を浮き彫りにすることができるのです。