「絶対年代」とは?
歴史の謎を解き明かすとき、「それは何年前の出来事なのか?」を正確に知ることはとても重要です。
遺跡や古生物の調査において、専門家たちは「絶対年代(ぜったいねんだい)」という、具体的な「数字としての年齢」を導き出す技術を使っています。
私たちのプロジェクトでも、主に以下の2つの強力な科学的手法を使って、過去の時間を特定しています。
1. 放射性炭素年代測定(C14年代測定)
「生物の遺体」から時間を知る方法です。
木炭、骨、貝殻といった「かつて生きていたもの」の中に残っている炭素の量を測ることで、それらが何年前に命を終えたのかを割り出します。
2. 考古磁気学(こうこじきがく)探査
「残された磁気」から時間を知る方法です。
古代の炉(オーブン)や焼けた壁には、熱せられた瞬間の「地球の磁気」が焼き付けられています。当時の地球の磁場のデータと照らし合わせることで、その場所がいつ使われていたのかを特定します。
これら2つの「科学の目」を組み合わせることで、私たちは数千年前の歴史を、単なる推測ではなく確かな「数字」として描き出そうとしています!
これらの技術を利用するには、発掘現場から、測定可能な特定の資料をサンプリングする必要があります。
例えば、こんなものです!↓
- 放射性炭素年代測定(C14年代測定):
木材、炭、骨、貝殻などの「有機物」の残骸(エコファクト)が必要です。 - 考古磁気年代測定:
主に建築資材、漆喰(スタッコ)、あるいは炉(オーブン)などが対象となります。
採取されたサンプルは、それぞれの測定法に応じた専門の設備と高度な訓練を受けた技術者が待つ研究所へと送られ、詳細な分析が行われます。
放射性炭素年代測定(ラジオカーボン・デーティング)
「放射性炭素年代測定」とは、一言でいうと、「生物の遺体の中に残っている『天然のタイマー』を読み取って、死後何年経ったかを当てる技術」。
炭素の不安定な放射性同位体である「炭素14」を調べることで、わかります。
「炭素14」とは?
私たちの体や植物など、すべての生物は「炭素」でできています。
炭素にはいくつか種類がありますが、その中にごくわずか(1兆個に1個レベル)だけ、「炭素14」という不安定な性質を持つ特別な炭素が混ざっています。
- ふつうの炭素: ずっと変化せず、そのまま残る。
- 炭素14: 時間が経つと、別の物質に変わって少しずつ減っていく。
「炭素14」によって、どうやって年代を当てる?「年代がわかる仕組み」
- 生きている間は「吸収」:
すべての生物は、生きている間に大気中から「炭素14」を取り込み続けています。 - 死んでから「停止と崩壊」:
生物が死ぬと、新たな炭素の取り込みが止まり、体内にあった炭素14は一定の速度で減少(崩壊)し始めます。 - (数千・数万年後)測定:
木材、炭、骨、貝殻、コラーゲンなどの有機物の遺物に残っている「安定した炭素」と「減少した炭素14」の比率を測ります。これにより、その生物が死んでからどれくらいの時間が経過したかを計算できるのです。
これらの数値をもとに、遺跡がいつ頃のものだったのかという「時代」を推定します。
この方法を使うと、以下のようなものの年代がわかります。
- 遺跡で見つかった木炭: その木がいつ伐採(または燃焼)されたか。
- 古い骨や貝殻: その動物がいつ死んだか。
- 古文書の紙や布: その原料となる植物がいつ収穫されたか。
「放射性炭素年代測定」が20世紀半ばに登場して以来、世界中の古生物学的・考古学的遺跡の年代を推定するために欠かせない技術となっています。
本プロジェクトの取り組み
当プロジェクトでは、すでに複数の炭(チャコール)や骨のサンプルを、アリゾナ大学の加速器質量分析(AMS)研究所や、世界大手のBeta Analytic(ベータ・アナリティク)社へと提出し、詳細な分析を行っています。
考古磁気学探査(アーケオマグネティック・スタディーズ)
考古磁気年代測定は、遺跡の「絶対年代」を算出するために考古学者が用いる、もう一つの高度な専門技術です。
この方法では、地球の磁場(地磁気)が長い年月の間にわずかに変化し続けていることを利用します。
仕組み:地球は巨大な「記録装置」
地球の磁北(方位磁石が指す北)の位置やその強さは、時代とともに刻々と変化しています。
- 磁気の固定:
古代の炉(オーブン)や漆喰の床などが、調理や火災などで高温(約600°C以上)に熱せられると、その材料に含まれる磁石の性質を持つ粒子が、当時の地球の磁場と同じ方向を向きます。 - 記録の保存:
冷めて固まると、その時代の磁気の向きや強さがそのまま「記録」として固定されます。 - 照合:
遺跡から採取したサンプルの磁気と、すでに解明されている過去の磁場の変動データを照らし合わせることで、その構造物が「最後に熱せられた(使われた)のはいつか」を特定できるのです。
第1回調査シーズンで採取されたサンプルは、現在すでに年代測定が進められています。
この分析をリードしているのはソレール博士です。彼女はメキシコ国立自治大学(UNAM)地球物理学研究所の「古磁気学研究室(考古磁気学部門)」にて、日々分析を行っています。
この調査結果によって、この地域の絶対的な年代が明らかになり、さらには調査対象となった構造物が具体的にいつの時代に使用されていたのかを確定できると期待されています。
But what is it?
考古磁気学の仕組みをより深く理解するために、まず地球が持つ磁気の性質についてお話ししましょう。
1. 地球という「巨大な磁石」
地球は、あたかも巨大な磁石のように振る舞っており、そこから磁力が放射されています。面白いことに、磁気的な「S極」は地理的な北極付近にあり、磁気的な「N極」は地理的な南極付近に位置しています。
この磁極の正確な位置は一定ではなく、長い年月をかけてゆっくりと移動しています。磁場の「向き」や「強さ」が時代とともに変化することは、17世紀半ばから研究されてきました。現代では、これらの観測データをもとに、磁北の位置が時代ごとにどこにあったかを記録した表をグラフ化した「永年変化曲線(secular variation curve)」が作成されています。
2. 火が「記録」を焼き付ける仕組み
次に重要なのが、土壌などに含まれる酸化鉄(赤鉄鉱、磁鉄鉱など)の性質です。
これらの鉱物も磁気を持っていますが、火災や調理などで高温(500〜700 °C)に熱せられると、一旦その磁気を失います。
その後、温度が下がっていく過程で、これらの鉱物は「その瞬間の地球の磁場」と同じ方向を向いて再び整列します。
- 熱残留磁気(Thermoremanent magnetism):
このようにして鉱物が獲得した磁気のことを呼びます。 - 保存される記録:
一度冷えて固まると、その磁気は長い年月の間、しっかりと保持されます。
つまり、古代の炉や焼けた壁などは、冷え固まった瞬間の地球の磁気を閉じ込めた「タイムカプセル」のような役割を果たすのです。
専門家は、遺跡から見つかったサンプルの磁気と、先ほどの「永年変化曲線」を照らし合わせることで、その場所が最後にいつ熱せられたのか、つまり「いつ使われていたのか」を特定することができるのです。
漆喰に残る磁気の仕組み
漆喰に含まれる磁性鉱物が、熱によって当時の地球の磁場を記録するプロセスは、以下の3つのステップに分けられます。
a) 漆喰の塗布(初期状態)
漆喰が壁や床に塗られた段階では、そこに含まれる磁性鉱物は、粒子の形や大きさに依存した「初期磁化」を持っています。この時点では、まだ特定の年代を示すデータとしては機能していません。
b) 加熱と磁気の消失
火災や意図的な加熱によって、磁性鉱物の「キュリー温度」(磁性を失う特定の温度)に達すると、それまで持っていた初期磁化が失われます。いわば、記録データが一度「リセット」される状態です。
c) 冷却と記録の固定
温度が下がるにつれて、鉱物はその瞬間の地球の磁場と同じ方向を向いて再び磁気を帯びます。これが残留磁化(または最終磁化)と呼ばれるものです。
重要ポイント
この最終磁化を測定し、当時の地球磁場のデータと照らし合わせることで、その場所が「最後にいつ火にさらされたか(=いつ使われていたか)」という正確な年代を割り出すことができます。(出典:Soler Arechalde (2014) の図表およびテキストを改変。漆喰壁の画像は Séjourné (1969) より引用。)
古代から、磁性鉱物は床や壁、壁画、そして陶磁器の着色料として使われてきました。
その結果、これらの遺物は(調理や焼成、あるいは火災などによって)高温にさらされる機会が多く、現代の私たちにとって非常に有用な「年代測定の資料」となっています。
これらの鉱物に記録された磁気の特性を、当時の磁北の位置を示す「永年変化曲線(secular variation curve)」と照らし合わせることで、遺跡の正確な年代を推定することができるのです。
考古磁気学には、どのような資料が使われる?
地球の磁場の向きをそのまま記録している遺構(遺跡に残る構造物)には、オーブン(炉)、焼けた床や壁、コマール(土製の平鍋)、コンロ(いろり)などがあります。
また、最近の研究では、壁画や漆喰(スタッコ)の壁も年代測定に利用できることが分かってきました。絵の具の中に特定の鉱物(細かく砕いた赤鉄鉱など)が含まれている場合、それらが描かれた当時の磁場の向きを記録しているためです(アナ・マリア・ソレール・アレチャルデ博士による教示)。
調査で大切なこと
考古磁気学のサンプルを採取する際は、「層位(そうい)」を厳格に管理しながら発掘を行う必要があります。その遺物が「どの地層から出たか」という文脈情報は、基準となる年代の精度を高めるために極めて重要だからです。
さらに、考古磁気分析の結果をより確かなものにするために、放射性炭素年代測定、熱ルミネッセンス年代測定、黒曜石水和層年代測定など、他の「絶対年代測定」の技術と組み合わせて、多角的に検証することが推奨されています。
考古磁気学のためのサンプリング(試料採取)
プロジェクトの第1回発掘シーズンにおいて、アナ・ソレール博士は遺跡の正確な年代(絶対年代)を推定するために、いくつかのサンプルを採取しました。
以下に、考古磁気学のサンプルを採取する際の一般的な手順をまとめました。これは主に「床面」からサンプルを採る際の手法ですが、調査対象の状況(文脈)によって、採取の仕方は少しずつ異なります。
考古磁気学のサンプル採取と分析の手順
- サンプルの貼り付け
直径2.54cm、高さ2.1cmの小さな木製の円筒(シリンダー)を用意します。磁気に影響を与えない特殊な接着剤(エポキシ樹脂)を使い、一つの調査地点につき約10個の円筒を床や壁の表面に貼り付けます。それぞれに名前を書き、向きを記録する準備を整えます。
- 正確な「向き」の記録
「ブラントン・コンパス」という専門的な方位磁石を使い、それぞれのサンプルが「現在の北」に対してどの方向を向いているかを測定し、消えないインクで矢印を書き込みます。また、水平面に対してどれくらい傾いているかも測定します。この「方位」と「傾き」のデータが、後に古代の磁場を計算するための重要な基準となります。

- 慎重な切り出し
ノミやハンマー、ヘラなどを使って、木製の円筒を慎重に取り外します。このとき、床や壁の表面(漆喰層など)が木筒にしっかりくっついた状態で剥がれるように、細心の注意を払います。 - 保護とラベル付け
漆喰の破片がついた木筒をコットンで優しく包み、サンプル番号を記入したラベルを貼って保護します。 - サンプル数
一つの場所から採取する個数は現場の状態によって異なりますが、通常は10〜12個の標本を1セットとして採取します。(この計算は統計に基づいているため、サンプルの数が多いほど、年代の特定に関する信頼性が高くなります。) - ラボでの調整
研究所に持ち帰ったサンプルは、「磁力計」という装置で分析しやすいように、適切なサイズに整えられます。 - 磁力の測定
磁力計を使って、サンプルに段階的に交流磁場をかけ、それぞれの標本が記録している磁気の向きを割り出していきます。 - 年代の決定(統計解析)
得られたすべてのデータの平均値を出し、統計的な処理(フィッシャー統計)を行います。その結果を、当時の磁北の動きを記録した「永年変化曲線」と照らし合わせます。ベイズ統計という手法を用いて、「偏角(北からのズレ)」と「伏角(水平面からの角度)」を分析することで、その遺構が使われていた年代を確率的に割り出します。
サンプルの採取には、先ほどの小さな筒を使う方法だけでなく、大きな塊のまま採取する「ブロック・サンプリング」という方法もあります。
手順の詳細は先ほどと同じですが、大きな違いは以下の通りです。
- 方位の記録は一度だけ:
ブロック全体に対して一度だけ方位を記録すればよいため、現場での作業工程をシンプルにできます。 - より精密な分割:
塊のまま研究所へ持ち帰り、設備が整った安定した環境で、さらに細かな分析用のサンプルへと分割します。 - 情報の保持:
大きなサイズで採取するため、後からより詳細な分析が必要になった場合でも、柔軟に対応できるメリットがあります。
このように、現場の状況や必要なデータの精度に合わせて、サンプリングの方法を使い分けています。
これまでに発掘して出てきた遺物の分析結果がまとまり次第、こちらのホームページでもお知らせします。どうぞお見逃しなく!
参考文献:
Séjourné, L. 1969. Teotihuacan Métropole de l’Amérique. François Maspero, Paris, pp. 318.
Soler Arechalde, A. M. 2014. Arqueomagnetismo en Mexico 1965-2013. Latinmag Letter 4(4): 1-14.



