数字で紐解くテオティワカン
著者:Yolanda Peláez Castellanos
日本語訳:西原玲名
テオティワカンは、かつて中米(メソアメリカ)で最も強大な影響力を誇った都市の一つでした。紀元前100年頃から紀元550年頃にかけて、この街がいかに壮大であったかは、多くの文献でも繰り返し語り継がれています。
その全盛期には、およそ20平方キロメートル(東京ドーム約430個分近く!)もの広大な敷地に、7万5,000人から12万5,000人もの人々が暮らす大都会でした。
市内最大の建造物である「太陽のピラミッド」は、高さが63メートルあり、底辺の四辺はそれぞれ222メートルにも達します。
さて、なぜこうした数字をあえて並べてみたのでしょうか?
実は今回のブログの目的は、こうした「数字」を詳しく紐解きながら、世界各地にある他の都市やモニュメント、エリアなどと比較してみることにあるんです。
そうすることで、テオティワカンという巨大都市がいかに圧倒的なスケールであったかを、より身近に感じ、深く理解していただけるはずです!
都市が栄えた期間:紀元前100年〜紀元550年
歴史を学ぶとき、ただ年号を暗記するよりも、その背景にあるストーリーを知るほうがずっとワクワクしますよね。それでも「日付」や「年」という数字は、いつ・どこで・何が起きたのかという、出来事のつながりを理解するのにとても役立つ道しるべになります。
テオティワカンは、今から何千年も昔、何世紀もの間、人々の生活の場となっていました。では、それは一体どれくらい昔のことなのでしょうか?そしてその頃、世界の他の場所では何が起きていたのでしょうか。
「650年間」という時間の長さ
テオティワカンという都市は、およそ650年もの長い間、繁栄を続けました。 これを今の時代(2021年現在)から逆算して考えてみましょう。今から650年前といえば、西暦1371年(14世紀)です。この時代には、ヨーロッパでペスト(黒死病)が猛威を振るい、イタリアの詩人ダンテ・アリギエーリが名作『神曲』を執筆していました。
14世紀から現代までに、世界がどれほど劇的に変化したかを想像してみてください。そう考えると、テオティワカンが栄えた「650年」という月日が、いかに長い時間であったかが実感できるはずです。
土器から見るテオティワカンの歴史
以下の表は、テオティワカンの土器の変化に基づいた年代推計をまとめたものです(Cowgill 2015)。これによると、この都市は「パトラチケ期」から「後期ショラルパン期」にかけて人々が居住しており、紀元550年頃から崩壊が始まったと考えられています(Manzanilla 2018:213-215)。
土器の種類や、それによって歴史の順序を知る「相対年代」についてもっと詳しく知りたい方は、ぜひ「相対年代(Relative Chronology)」の記事を覗いてみてくださいね。
| 時期(フェーズ) | 年代(推定) |
| パトラチケ期 (Patlachique) | 紀元前100年 – 紀元前1年 |
| ツァクアリ期 (Tzacualli) | 紀元1年 – 100年 |
| ミカオトリ期 (Miccaotli) | 紀元100年 – 170年 |
| 前期トラミミロルパ期 (Early Tlamimilolpa) | 紀元170年 – 250年 |
| 後期トラミミロルパ期 (Late Tlamimilolpa) | 紀元250年 – 350年 |
| 前期ショラルパン期 (Early Xolalpan) | 紀元350年 – 450年 |
| 後期ショラルパン期 (Late Xolalpan) | 紀元450年 – 550年 |
| メテペック期 (Metepec) | 紀元550年 – 650年 |
その頃、ヨーロッパはどうだったのでしょうか?
テオティワカンが都市として産声を上げた時期(パトラチケ期)は、ちょうどローマ帝国の始まり(紀元前27年〜紀元476年)とほぼ重なっています。
つまり、メキシコの地でテオティワカンが巨大なピラミッドを築き、大都市へと発展していったのと同時期に、ヨーロッパではローマ帝国がその版図を広げ、黄金時代を築いていたのです。
そして、テオティワカンが衰退し人々が去っていった6世紀頃、ヨーロッパは「中世前期」という新しい時代へと足を踏み入れていくことになります。
このように比較してみると、遠く離れた二つの地域で、それぞれが巨大な文明の興亡を同じリズムで刻んでいたことがわかりますね。
推定人口:約7万5,000人〜12万5,000人
もし当時、人口を記録した名簿のようなものがあったとしても、残念ながらテオティワカンには残されていません。そのため、実際にどれほどの人々がこの街で暮らしていたのか、正確な数字を知ることはできません。
しかし、考古学者たちはさまざまなデータをもとに推定値を出しています。
ルネ・ミロン(René Millon, 1973)の計算によると、テオティワカンの全盛期には7万5,000人から12万5,000人の人々がいたとされています[1]。
この数字、現代の感覚だと少しイメージしにくいかもしれませんが、いくつか例を挙げてみましょう。
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現代の都市との比較:
たとえば、ベルギーの古都ブルージュの2017年の人口(11万8,284人)が、当時のテオティワカンの規模とほぼ同じくらいです。 -
当時の世界規模:
現代の巨大都市と比べれば少なく感じるかもしれませんが、当時は西半球で最大の都市であり、世界全体で見ても6番目に大きな大都会だったのです(図1参照)。
大昔にこれほど多くの人々がひとつの場所に集まり、組織化された社会を作っていたと考えると、そのすごさが伝わるのではないでしょうか。
[1] より最近の研究(Cowgill 2015など)では、もう少し控えめな人口推計も出されていますが、ここでは図1の地図データと整合性をとるため、ミロンの推定値を採用しています。

都市の面積:約20 km2
現在、テオティワカン考古遺跡として一般に公開されている主なエリアは、都市の「儀礼中心部(セレモニアル・センター)」と呼ばれる場所です。その広さは約2.4平方キロメートルあります(図2・3参照)。
この数字をより身近なものと比較してみましょう。
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モナコ公国:
西ヨーロッパにあるこの国は、国全体で約2平方キロメートルです。つまり、テオティワカンの中心部だけで、一つの国がすっぽり収まってしまう広さがあるのです。 -
ニューヨーク セントラルパーク:
こちらは約3.41平方キロメートル。テオティワカンの観光エリアは、この有名な巨大公園よりは少し小さいくらいの規模感です。
しかし、驚くのはここからです。私たちが普段観光で歩いているエリアは、都市全体(約20平方キロメートル)のわずか12%程度にすぎません。
当時の都市全体の広さを他の場所と比べてみると:
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ナウル共和国:
ミクロネシアにある島国ナウルの面積は約21平方キロメートルです。
つまり、最盛期のテオティワカンは、一つの島国に匹敵するほどの広大な市街地を持っていたことになります。見渡す限りの建物がひしめき合っていた当時の様子を想像すると、その圧倒的なスケールに驚かされますね。


a) 北部エリア: 「月のピラミッド」や「カラムズ広場複合(PPCC)」の一部が含まれます。
b) 南部エリア: 「シウダデラ(城塞)」や「大集合体(グレート・コンパウンド)」が含まれます。
オレンジ色の線で囲まれているのが現在の遺跡指定区域ですが、その外側にある現代の町も、実はかつての古代都市の上に築かれていることがわかります。
太陽のピラミッドの大きさ
推定の高さ:約63m
底辺:一辺約222m
総面積:約49,248㎡
テオティワカン最大の建造物である「太陽のピラミッド」ですが、実は本来の正確な高さはわかっていません。 数世紀にわたる風化や人為的な破壊、そして(必ずしも正確とは言えない)何度もの復元作業を経てきたからです。現在の計測では、高さは63メートルとされています(Sugiyama 1993:112)。
この「63メートル」という高さを世界の名所と比べてみましょう。
- マハーボーディ寺院(インド): 約55メートル
- ピサの斜塔(イタリア): 約56.67メートル
これらと高さは近いですが、太陽のピラミッドが圧倒的なのはその「重厚感」です。
驚きの「底面積」
太陽のピラミッドの底面積は約49,248㎡に及びます。
スタジアムに足を踏み入れたとき、その広さに自分の小ささを感じたことはありませんか?
- プリンシパリティ・スタジアム(ウェールズ): 約40,000㎡
- ウィンザー城(イギリス): 約52,609㎡
つまり、太陽のピラミッドは、巨大なサッカースタジアムがすっぽり収まり、イギリスの由緒ある名城とほぼ同等の敷地面積を持つほど、横に広く、どっしりとした巨大な構造物なのです。
エジプト・ギザのピラミッドとの比較
「ピラミッド」と聞くと、多くの人がエジプトのギザにあるピラミッド群を思い浮かべるでしょう。
では、テオティワカンの太陽のピラミッドとギザのピラミッドを並べると、どのような違いがあるのでしょうか。
以下の表に、それぞれの数値をまとめてみました(Britannica 2021 / Sugiyama 1993)。
| ピラミッド名 | 高さ | 底辺(一辺) |
| クフ王のピラミッド(エジプト) | 147 m (481.4 ft) | 230 m (755.75 ft) |
| カフラー王のピラミッド(エジプト) | 143 m (471 ft) | 216 m (707.75 ft) |
| メンカウラー王のピラミッド(エジプト) | 66 m (218 ft) | 109 m (356.5 ft) |
| 太陽のピラミッド(メキシコ・テオティワカン) | 63 m (206.69 ft) | 222 m (728.34 ft) |
ご覧の通り、太陽のピラミッドの高さは、ギザの「メンカウラー王のピラミッド」とほぼ同じくらいです。
クフ王やカフラー王のピラミッドに比べると高さでは及びませんが、底辺の長さ(図4)を比較してみると、それらと非常に近い数値であることがわかります。つまり、建物が占めている敷地面積でいえば、テオティワカンの太陽のピラミッドはエジプトの巨大ピラミッド群に引けを取らないほどのスケールを誇っているのです。

壮大なる都市、テオティワカン
650年以上にわたって栄え続けたテオティワカンは、世界最大級のモニュメントがそびえ立つ広大な大地の中で、驚くほど多くの人々の営みを支えてきました。
次にこの遺跡を訪れるときは、ぜひ今回ご紹介した「数字」が持つ意味を、当時の人々の知恵や創意工夫と結びつけて想像してみてください。強固な意志と力がなければ、これほどまでの都市が存続し続けることは不可能です。
テオティワカンは、複雑で力強い社会政治的基盤の上に築かれた都市が、何世紀にもわたって到達できる最高の姿を示している「模範」そのものなのです。
参考文献
Britannica, The Editors of Encyclopaedia
2020 “Central Park”. Encyclopedia Britannica. Electronic document, https://www.britannica.com/place/Central-Park-New-York-City, accessed July 30, 2021.
Britannica, The Editors of Encyclopaedia
2019 “Mahabodhi Temple”. Encyclopedia Britannica. Electronic document, https://www.britannica.com/topic/Mahabodhi-Temple, accessed July 30, 2021.
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2021 “Pyramids of Giza”. Encyclopedia Britannica. Electronic document, https://www.britannica.com/topic/Pyramids-of-Giza, accessed 2 August 2021.
Britannica, The Editors of Encyclopaedia
2021 “Roman Empire”. Encyclopedia Britannica. Electronic document, https://www.britannica.com/place/Roman-Empire, accessed April 13, 2021.
Cmglee
2016 Comparison of Pyramids. Electronic document, https://en.wikipedia.org/wiki/File:Comparison_of_pyramids.svg, accessed July 30, 2021.
INAH
2021 Zona arqueológica de Teotihuacan. Electronic document, https://inah.gob.mx/zonas/23-zona-arqueologica-de-teotihuacan, accessed April 12, 2021.
Latham, Richard
2021 “Polo”. Encyclopedia Britannica. Electronic document, https://www.britannica.com/sports/polo, accessed July 30, 2021.
Leaning Tower of Pisa
2021 Leaning Tower of Pisa. Facts. Electronic document, https://www.towerofpisa.org/leaning-tower-of-pisa-facts/, accessed April 13, 2021.
Manzanilla, Linda
2018 Corporate Societies with Exclusionary Social Components: The Teotihuacan Metropolis. Origini, Prehistory and Protohistory of Ancient Civilizations XLII:211-225.
Michigan Geographic Alliance
s.f. World’s Largest Cities Maps. Electronic document, https://www.cmich.edu/colleges/se/Geography/Michigan%20Geographic%20Alliance/Geography%20Resources/Lesson%20Plans%20by%20Curriculum/Documents/World%27s%20Largest%20Cities%20Maps.pdf, accessed April 13, 2021.
Principality Stadium
2021 Facts and Figures. Electronic document, https://www.principalitystadium.wales/information/facts-and-figures/, accessed July 30, 2021.
Royal Borough of Windsor and Maidenhead
2021 Windsor Castle. Electronic document, https://www.windsor.gov.uk/things-to-do/windsor-castle-p43983, accessed July 30, 2021.
UrbiStat
s.f. Municipality of Burges. Electronic document, https://ugeo.urbistat.com/AdminStat/en/be/demografia/dati-sintesi/bruges/20204703/4, accessed April 12, 2021.
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2021 Los diez países más pequeños del mundo. Electronic document, https://viajes.nationalgeographic.com.es/a/cinco-paises-mas-pequenos-mundo_9351, accessed July 30, 2021.